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結婚するなら。

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結婚するなら。




 




人や妖精、獣人と多様な種族が暮らす大陸、
ミッドガルドには、それぞれの種族が作った国がいくつかある。
その中で人間の国で最も大きなフォートベルエ王国では、
国民を脅かす魔物討伐を推奨するため、
軍に所属しない国内の戦力を把握するために、
冒険者の資格を定めている。
公式冒険者と一口に言っても、
武器を扱う戦士や弓師、魔法を扱う魔道士と、
職業ごとに得意分野が分かれ、複数で行動するほうが、
多少なりとも安全性が向上する。
円滑な業務や利便性を求め、
冒険者たちは通常個人ギルドと呼ばれる団体に所属し、
その中の一人、ジョーカー・ペンドラゴンも、
ギルドの一つ、ZempことZekeZeroHampに在籍していた。

公式冒険者と言えば、街から離れた未開の土地でしか入手できない鉱物や、
薬草の採取、危険な魔物の討伐から素材の剥ぎ取りと、
一瞬たりとも気の抜けない荒事に携わるものだが、
だからこそ、休日は思い切り気を抜いている。
その日のジョーカーも、特段の理由なく、
気の向くまま、ブラブラと街を散歩していた。
途中で誰かに呼ばれたような気がして立ち止まり、
アサシンという職につくが故にと言い張って、
常時装着している道化師の仮面を外し、
周囲を見回してみるが、誰も居ない。
気のせいかと再び歩きだして3分もしないうちに、
前方の公園からポテポテと見慣れた小さい生き物が飛び出してきた。

「ジョカしゃんー!」
満面の笑みを浮かべて現れたのは、
Zempで預かっている幼児、キィだった。
所属メンバーの一人を頼ってやってきた小さい人は、
この歳にしては賢く、人見知りしない。
ニコニコと笑いながら絶対の信頼を寄せられて、
不快を示す者はメンバー内におらず、
子供に興味のなかったジョーカーも例外ではなかった。
周囲の評価はともかくとして、
今ではすっかり良いお兄ちゃんになったと本人は思っている。
「きいたん、どうしたの?」
大喜びで駆け寄ってくる幼児を抱き上げたところに、
更にZempのメンバー、祀と敦がやってきた。
どうやら三人で散歩に来ていたらしい。

「きいたん、こうえんで、あみあみにのぼってたんだよー
 そしたら、ジョカしゃんがみえたから、おーいってよんだんだけど、
 ジョカしゃん、わかんなかったから、おっかけてきたんだよー」
「そうなんだー …って、あみあみ?」
ご機嫌で説明する幼児に頷いて、ジョーカーは一点に引っかかる。
そのまま、ようと片手を上げた付き添い二人を、
挨拶もそこそこに叱りつけた。
「君ら、また、きいたんにジャングルジム登らせたの!?
 危ないからやめろって言ってるじゃん!!」
出会い頭に怒鳴られて、祀が口を尖らす。
「大丈夫ですって、見てますから。」
「見てるだけでしょ! 駄目なんだからね、見てるだけじゃ!
 フェイさんも、散々クレイさんやテツさんに言われてるでしょ!」
メンバーが仕事中危機に陥っても、
観てるだけで滅多に助けないギルマスを例に怒られて尚、
敦が呑気に笑う。
「あはは、そりゃそうや。」
「笑い事じゃないの!
 本当にきいたんが落ちたらどうするつもりさ! 
 二人共回復魔法使えるけど、そう言う問題じゃないからね!
 回復魔法は万能じゃないし、まず、怪我させないようにしないと!」
以前からの警告が全く考慮されていないことに、
ジョーカーは憤ったが、対する二人に反省の色はなかった。

「どうしやしょう。ジョカさんが、至極まともです。」
「明日は槍が降るかもしれんな。」
「だから、そうじゃないでしょ!」
普段の己を棚上げだが、キィの安全性を考えれば黙っては居られない。
「ボクのことを笑うのは良いけどさ、
 きいたんに万一のことがあったら困るどころの話じゃないでしょ!
 そこはちゃんとしてよ、本当に!」
実際に槍が降っても文句は言えないと自分でも思いながら、
真面目にジョーカーは怒り、漸く二人はまともに取り合うつもりになったらしい。
祀は肩をすくめ、敦が問題ないと改めて説明してきた。
「大丈夫やって、ジャングルジムやないから。」
彼が指で示した方向を見やれば、
公園内に設置された遊具が見えた。
「あれなら、早々落ちはせえへんって。」
「ふーん、あんなのできたんだ。けどさあ…」
登って遊ぶ遊具をつなぐのは10cm程度の網目で、
敦が言うとおり、いくら小さなキィでも落ちはしない。
バランスを崩し、手を離したところで何処かに引っかかるだろうし、
最悪でもコロコロ転がる程度で済むだろうが。

「それにしても、高すぎない?」
見上げた遊具の天辺は優に4mほど。
キィのような2歳足らずの幼児が遊ぶに向いていると思えないのは、
ジョーカーだけだろうか。
「せやから、側についとるって。」
「側にいるだけじゃ駄目なんだからね、落ちるのを止めないと。」
繰り返しのような言葉を交わす敦とジョーカーを、
祀が鼻先で笑う。

「だいじょうぶだよ、ジョカしゃん。
 きいたんは、あみあみをのぼんのが、とくいだよ。」
危ないと止められているのを理解し、
不可解そうにキィも問題がないことを主張した。
「そりゃまあ、そうかもしれないけど。」
幼児が「出来る」と得意に思っていることを否定するのも良くない。
眉尻を下げたジョーカーに、キィは自慢げに言った。
「きいたんは、あみあみ、ちゃんとのぼれるし、こわくないよー
 それに、あみあみ、のぼんなかったら、
 ジョカしゃんに、きがつかなかったよー
 ジョカしゃんがみえたから、きいたん、いそいできたんだよー
 まにあって、よかったよー」
「そっかー ボクが見えたから、
 きいたん、急いでボクのところに来たんだ。」
危険性は気になるが、自分に会いにすっ飛んできたと言われ、
ジョーカーは相好を崩した。
「もー 可愛いなあ、きいたんは。
 ボクのことが大好きなんだからー」
純粋に会えたことを喜ばれ、嬉しくないはずがない。
ジョーカーは日頃の行いが悪く、
多々貶され、叩かれているので余計である。
小さな人をぎゅっと抱きしめて頬ずりすれば、
敦と祀が大げさに溜息をついた。
「きいこは、誰に対してもそんな感じやで?」
「情けない。きいたんの万人への愛情しか得られない上に、
 自分固有のものと勘違いするとか、実に情けない。」
「るっさいなー 君らは、もー」
折角良い気分でいるのに、邪魔をしないでいただきたい。
ジョーカーはしっしと二人を片手で振り払い、
改めてキィに笑顔を向けた。

「きいたんさぁ、そんなにボクが好きなら、
 大きくなったら、ボクのところにお嫁さんに来るかい?」
大人が子供に言う、定番のセリフである。
他意はなく、あることを邪推するほうが邪心すぎるため、
祀も敦も呆れた顔をしただけで何も言わなかったが、
キィが目をぱちくりさせた。
「きいたんが、おねえちゃんになるころには、
 ジョカしゃんはおじちゃんだよ?」

この台詞をキィの父親の言葉に訳せば以下の通り。
『お前は一体、何を言っているんだ?
 歳を考えろ。馬鹿なのか?』

そのままでもジョーカーに意図はしっかり伝わっており、
別に翻訳する意味はないが、要はそう言うことである。
心底不思議そうな顔をされて、ジョーカーはがっくりと肩を落とした。
「どうしよう…きいたんに、呆れられちゃった…」
「正直、今更やと思うで。」
「あんたは気にするべきことが、
 これ以前にも大量に有ったと思いますぜ。」
敦と祀が冷静に無情な感想を述べる。

己の評価と周囲の対応を思い出し、ジョーカーはフンと鼻で笑った。
「良いもんね、別に。
 きいたんがボクを好きなことに変わりはないもんね。」
ふーんだと不貞腐れ、そのまま、公園に向かって歩き出す。
抱えていたキィを下ろせば、
幼児はまたご機嫌でちみちみと走っていき、
今度はすべり台に向かっていった。
「転ばないよう、気をつけなさいよー?」
声をかけるも後は追わず、一人前の顔をして、
よそのこの列に混ざったキィの姿を眺め、
ジョーカーは肩を落とした。

思い返せば、一番はじめにギルドにやって来たときは、
キィはまだ、話すことも、歩くこともおぼつかなかった。
それがいつの間にやらおしゃべりが上手になり、
周囲をちょろつくようになり、帰宅すれば、
誰に言われずとも出迎えにやってくるようになった。
感傷的なものを覚え、しみじみ呟く。
「本当、今はあんなに小さくても、
 すぐお嫁にいっちゃったりするのかね。」
「いくらなんでも、気が早いんやないの。」
ジョーカーの感傷は敦には伝わらなかったらしく、
あっさり笑われた。
「そうかなあ? よその子は、成長が早いっていうよ?」
「そりゃ、意味が違うんとちゃう?」
むうと双方唸った隣で、祀が別の理由で眉間に皺を寄せる。
「てか、ちゃんとお嫁にいけるんすかね、きいたんは?」
「えー? 大丈夫でしょ。あんなに可愛いんだから。」
不可解な心配に、ジョーカーは首を傾げたが、
忘れてないかと指摘された。
「そりゃ、きいたんは可愛いっすけどね。
 親が親ですからな。」

言われて思い出した。
娘と一緒にギルドの居候として、
すっかり馴染んでいるので忘れていたが、
キィの父親、カオス・シン・ゴートレッグは、
ああ見えて、魔王の中の魔王であった。
しかも、娘を溺愛している。
「あー カオスさんが邪魔するか、
 可愛い娘を馬の骨にやれるかと怒り狂うかもね。」
口端を歪めたジョーカーに、
カオスを何かの師匠と仰ぐ祀は悲しそうに下を向き、首を横に振った。
「いや、師匠はそう言うお人じゃないっすよ。でもね。」
そのまま黙りこんだ祀の言葉を、敦が拾う。
「そういや、こないだ似たような話になって、
 『きいこの相手をどうやっておちょくるか、想像しただけで腹が痛い。』って、
 ゲラゲラ笑っとったで。」
笑いすぎて、最終的には噎せていたそうだ。
「うわー 流石世界最凶最悪の魔王。質悪いー 
 容易に想像つくだけに、本当、質悪いー」
うちの魔王は幼児に非常に甘いが、方向性が若干一般的ではなく、
価値観が色々とおかしい。
巷で言う婿姑問題とは違う内容で、絶対に揉める。
揺るぎない確定事項として断言できる。

「その後、
 『まあ、きいこが普通に幸せになれるなら、なんでも良いけどなー』
 とも、言うとったけど。」
「遅い。その前がその前だけに、
 本来感じるべき心の広さを全く感じない。」
「悪い人じゃないんすけどねぇ、師匠は。」
敦のフォローもさしたる効果はなく、
ジョーカーは冷淡に切り捨て、祀が遠い目をした。
そこに滑り台を滑り終わったキィが戻ってくる。
「おとうたん、わるい?」
なんの話をしていたのかと不思議がるのを、
ジョーカーは抱き上げた。
「ううん、きいたんがお嫁に行ったら、
 カオスさんがなんて言うかなって。」
説明しても、キィはよく判っていない様子だ。
こんな小さい子がお嫁に行く話など、
確かに早すぎるかもしれない。
何だか馬鹿馬鹿しくなって、ジョーカーはフフッと微笑んだ。
大体、結婚するも何も、大事なのはキィがどう思うかだろう。

「そういえば、きいたんはどんな人と結婚したい?」
聞いてみるも、キィはキョトンとするばかりだ。
やっぱり、少々早すぎる話題だったかとジョーカーは苦笑し、
祀と敦も笑った。
「きいたんは、誰と結婚したいんすかね?」
「お父さんとやないの? 女の子はよう言うやろ。」
笑う大人たちの言葉を、
キィはわかるところだけ拾ったらしい。
「きいたんは、おとうたんとけっこんしないよ。」
敦の口にした定番をあっさり否定した。
お父さんっ子のキィには似つかわしくない態度に思えたが、
続いた言葉は納得のいくものだった。
「けっこんなんか、しなくったって、
 きいたんと、おとうたんは、ずっといっしょだよ。」
結婚とは、ずっと一緒に暮らすことぐらいに思っているのだろう。
「あと、ルーもだよ。」
父親と愛用の動くぬいぐるみを同列にして、
フンと偉そうに主張するキィに、
大人たちは頷いたが、
同時にある事実に気がついてしまう。
「それって…要はきいたんの行くところに、
 カオスさんもついてくるってことだよね?」
「非常に頼もしいというべきか…扱いに困ると言うべきか…」
「ちゅーより、婿入り限定ってことやないの?」
結婚と同時に世界最強の魔王という、
非常に有力な後ろ盾を得るどころか、一緒についてくる。
あらゆる意味で、問題が多そうだ。
「婿入りか…姐さんの話を聞くに、実家のワンコさんたちにどう扱われるか、
 そこが肝でしょうな。」
「あと、“あの”ルーもついてくるってことやろ。」
「いや、それだけじゃないよ。実家にはティーもいるじゃん。
 婿入りって時点で色々あれなのに、どうなの、それ。」
意味のない割に不安材料が多すぎて、そろそろ嫌になってきた。

いい加減、この話は終わりにしよう。
ジョーカーは大きく息を吐き、笑った。
「でもさ、実際のところ、きいたんが幸せならなんでも良いよね。」
「せやね。師匠も言うとったで。そこが揺るがんかったら、
 相手なんかこの際、男でも女でも、人でも獣でも、
 有機物でも無機物でも、なんでもええって。」
「それはそれで、良くねえんじゃないでしょうか!」
敦が余計なことを言ったばっかりに、
思わず祀が叫んだが、あの父親ならたしかに言いそうだ。
さもありなんと言った内容に、ジョーカーが苦笑した横で、
キィが不満そうにふんと鼻息を吹く。
「おとうたんは、おかしいよ。
 きいたんは、おんなのこだから、
 おんなのひととはけっこんしないよ。」
親父は何を言っているのかと、
小さいひとの不服に、大人たちは顔を見合わせる。

「いや、別に、それは良いんじゃないの?」
ポリポリとジョーカーは頭を搔き、祀と敦が頷く。
「数は多くないかもしれやせんが、別に駄目なわけではないっすよね。」
「本人の自由意志やのーその辺は。」
同性であっても結婚できる。
ジョーカー一人だけなら信じなかったかもしれないが、
祀と敦も肯定するのに、事実だと理解したらしい。
キィは大きく目を見開き、興奮気味に宣言した。
「じゃあ、きいたん、おねえはんとけっこんする!」

慌てたせいで噛んだ幼児に、大人たちは表情をなくした。
「お姉ちゃんって…それはクレイさん? それともユーリさん?」
「どちらにしても…お兄ちゃんが山ほどいるのに…山ほどいるのに!」
「せやけど、非常に賢く正解に近い回答やと思うで?」
候補に挙げられなかった男性陣が、
頼りない者ばかりでは決してないのだが。
正直なキィの選択にジョーカー達は静かに溜息をついた。

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